欠かせない東京 舌側矯正
Cさんは、Aさんへの借金が一○円あるが、二○円の値がついた石ころを持っているので、差し引き一○円の純資産。
つまり、この時点で島民全員の資産は五○円に上がっている。
次のように島民が動けば、資産はまだまだ上がっていくのだ。
バブル発生のメカニズム日本が、世界が、酔いしれていたバブルとは何だったのか。
バブルが発生すると、それに関係する者全員が、お金持ちになることができる。
そしてバブルが崩壊すると、バブルに直接関係なかった人までが、貧しい境遇に落とされてしまう。
そこがバブルの怖いところだ。
Aさんは、自分が拾った石ころがまたたく間に値を上げたことが、悔しくて仕方がない。
これからも上がるだろう、と踏んだのだ。
Cさんから石ころを買い戻したいと思い、交渉するが、Cさんは言い放った。
「買い値が二○円なのだから、三○円出してくれなければけっして売らない」仕方なくAさんはBさんからこれから購入することになる石を担保(難しく言うと「持ち込み担保」という概念だ)として一○円を借り、手元の現金一○円と合わせて、Cさんにこう持ちかけた。
「三○円で売ってほしい。支払いは、現金二○円を払った上で、君に貸している一○円をチャラにする条件でどうだろう?」。
BさんはAさんに一○円を貸しても、それ以上の価値のある石を担保として取ったので、いざという時にも安心だと考えたわけだ。
ここでもう一度、島民の資産をチェックしてみると。
Aさんは、Bさんから一○円借金しているが、三○円の値の石を持っているので差し引き二○円の純資産。
Bさんは、現金一○円とAさんへの債権一○円の合計二○円の純資産。
Cさんは、現金二○円が純資産。
島民全員の総資産は、六○円になっているのだ。
三○円が六○円に!バブルがいったん発生すると、みんながハッピーになることがおわかりになっただろう。
現代の高度な資本主義社会では、石ころは、株であり、不動産であり、絵画でもあり、コモディティ(商品)でもある。
ただの石が何かの拍子でピカピカに見えた瞬間、バブルが発生し、拡大していく過程で資産はマジックのように増えていく。
バブルはこの後で発生してくる。
バブル崩壊のメカニズムでは、バブルが潰れるとどうなるのだろう。
バブルが潰れるとはーそれは石ころがある日、光らなくなり、または光り方が鈍くなり、砂浜に転がる無数の石と大差がなくなってしまったときのことだ。
Aさんは、一○円の借金と無価値の石で、純資産はマイナス一○円。
Bさんは、一○円の現金とAさんへの債権一○円で二○円の純資産だが、債権は回収できないだろう。
実質的な純資産は一○円だ。
Cさんは、現金二○円が純資産。
ここで問題となるのが、Aさんが抱えることとなったBさんからの借金だ。
Aさんには返す術がない。
万が一の場合には石を売って返済にあてようと考えたのだが、石が無価値となってしまったのだ。
このように、金融市場にデフォルト(債務不履行)がとめどもなく広がったのが、今回の金融恐慌なのだ。
もう一度要約してみよう。
Cさんが資産を元の二倍に増やし、Bさんの資産は実質、元のレベルに戻り、Aさんは返せない借金を残した。
言い換えれば、企業業績が悪化して株券に以前ほどの価値がなくなり、地価が下がって不動産の価格が下がってしまったときだ。
ゲームには種類によって「プラスサム」と「ゼロサム」と「マイナスサム」があることが、よく知られている。
プラスサムは、参加者全員が儲ける可能性のあるもの。
ゼロサムは、一部の参加者の犠牲の上に、一部の者が利益を得るもの。
勝って儲かる者もいれば、負けて損をする者もいる仕組みだ。
マイナスサムは、ゲーム参加者の間だけではゼロサムで終わるかもしれないが、ゲームの主催者(胴元のこと、日本中央競馬会とか証券会社とか)に払う手数料を考えると、確実にマイナスになる仕組みだ。
さきほどのたとえ話でいえば、バブルの最中は、島民三人ともがプラスサムのゲームに参加していたこととなる。
しかし、終わってみると、ゼロサムの世界に戻っていた。
島民の総資産は……三○円に戻ってしまった!三○円がバブルで六○円になり、バブルがはじけてまた三○円に一戻ってしまうとは!最初の島民の資産の計が三○円だったから良かったものの、島民がもっと多かったり、一人一○円以上の資産を持っている者がいたりしたら、バブルの規模は恐ろしいことになっていただろう。
もし、他の島の住人が金を貸したりしたら、それこそ大変だ。
バブルの規模が大きければ、それが崩壊したときの傷跡はそれだけ深くなるからだ。
今、世界中で起こっていることがこのことなのだ。
バブル崩壊に沈んだ北極海の島国このたとえ話で、ある国を思い出した人もいるかもしれない。
一九四三年まではデンマークの飛び地にすぎず、株式市場が正式に機能し始めたのはたかだか一九九○年からという、グリーンランドに近い小さな島国アイスランドだ。
漁業とボーキサイトに代表される鉱業でわずか三○万人の人口を養ってきた小国に、高金利に加えてレバレッジの異様に高い金融派生商品が崩れ込んできたのは、ごく最近のことだ。
金が国内に溢れ、やり手の若手実業家の群れが出現して、イギリスの有名ブランドを買収したり、先進諸国の次世代産業に投資をしたりした。
この国は、一九九○年代半ばに政府が銀行を民営化し、法人税を大幅に引き下げたことで世界中からマネーが流入し、人口一人当たりのGDPで世界第五位になるほどの豊かさを短時間で実現した。
アイスランドの実業家たちは、英プレミアリーグのW・Uを買収したりもしたほどだ。
さながら世界のマネーパーティーの会場と化したアイスランドは、いわば一国がそのまま投資銀行になったようなもので、金融危機の直撃を受けて、たちまちのうちに国家は事実上破算してしまう。
ゲームの種類に話を戻そう。
プラスサムでは、参加者全員の取り分の合計が、投資額より大きくなることがある。
有望な新規事業に出資して、その社が価値のある新製品を作り出すことに成功した場合出資者は定期的に相当額の配当金を得ることができ、やがて株式は高い値段で株式公開されて、関係者全員が金を儲けて、幸せになる。
だが、経済全体が停滞している場合や、不況に突入していく場合には、企業が上げるキャッシュ・フローは低下していく傾向にある。
こういった局面での株式投資は短期的にはゼロサムかマイナスサムのゲームに終わる可能性が高い。
経済学者Kzは投資家としても成功を収めたが、彼も群集心理を重視した。
「ゲームの理論と経済行動」などの著作のあるドイツの経済学者Mは、「すべてのものの価値は、他人がそれに支払う値段によって決まる」とのラテン語の格言株式投資をゲームと見立てて、その一面を説明しようとする試みは古くからなされてきた。
たとえば「より馬鹿理論」では、自分の購入価格より高く、誰かにそれを売れる見込みがあれば、どんな不合理な買い値でも意味を持つと考える。
不合理な買い値を超えて高く売りつけるためには、絶えず「おめでたい人」がゲームに加わってくることが必要で、「おめでたい人」がいる限り、このゲームは続き、そこには、何の理屈もなく、あるのは集団心理のみ。
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